2018年10月7日日曜日

大失敗、暴風雨の雷鳥沢ソロキャンプ

大失敗、暴風雨の雷鳥沢ソロキャンプ

2018/09/21-22

そもそもの計画段階からケチのついた山行だった。


第一回計画 9月3日~7日

わざわざ夏休みを9月にずらして取った。8月の夏休み期間を避け、しかも平日。これならば静かな山行になるだろうと期待した。
ところが、台風21号が直撃。
台風は雨風が吹き荒れるのは僅か1日程度なので、最悪、登頂日だけ晴れればいい、と思ったが、その登頂日に直撃するコースとなった。
登頂日を前後にずらそうとも思ったが、自転車なみの速度でどうにも暴風雨圏から逃れられそうもない。
これでわざわざずらして取った夏休みはおじゃんとなった。
9月は仕事もなかなか忙しい。その忙しい仕事をやりくりして取った夏休みだったのに。
あまりにも悲劇的なので、夏季休暇を2日ほどキャンセルして、別日に予定することにした。諦め切れなかった。

第二回計画 9月21日~25日

またしても台風が発生。だが、今度は何とか逸れそうだった。
わざわざ3連休を挟んで取った5連休。今度は大丈夫か。
しかし、天気予報は思わしくない。
それでも登頂日だけはなんとか晴れマークが付いていた。
この機会を逃したくなくて、決行することにした。

9月21日、午前4時10分。雨の中、小さな折り畳み傘を差してバス停に向かう。
ザックはグラナイトギアだが、今回は4泊5日で食糧・消耗品だけで4.5kgを超過したため、撮影機材も含めたザック総重量は13.2kgとなった。重い。
グラナイトギアのヴァーガ(初期モデル)はコンフォートレンジが9kg。だいぶオーバーしている。

JR八王子駅から電車を乗り継いで、信濃大町駅へ。
雨は小止みになっていた。
(ちなみに小止みは変換出来なかった。PCでもスマホでも、つくづく語彙力がダメだと思う。私のしょぼい語彙力を補ってくれるくらいではあって欲しい)
信濃大町より大町市民バスで扇沢へ。
ここは、黒部ダムの観光スポットの拠点だ。
大勢の家族連れとリア充達に囲まれて、大きなザックを背負って関電トンネルトロリーバスへ。
渓谷の中を通っていくのかと思ったら全線トンネル内だった。あ、そういうことなのね。
終点は黒部ダム。乗り換えのためダムの躯体を通って黒部湖駅へ。非常に大きなスケールのダムで、とてつもない人工物だが、あまりにも規模感が大き過ぎて実感が伴わない。ふーん、みたいな。なんて勿体無い。
黒部湖駅からケーブルカーで黒部平駅へ。高尾山とは違ってこれまた全線トンネル内の真っ暗なケーブルカー。
黒部平駅からロープウェイ。立山の山々は雨とガスで全く見えない。
ロープウェイを下りて、立山トンネルトロリーバスで再び真っ暗なトンネルを通り、室堂へ到着。観光コースのフルバージョンだ。
残念ながら、私にはうれしくない。私は偏屈な人間で、各地の観光名所などに全く興味が無い。なんというか・・・その、「ここが名所だ」と銘打たれた景色や造物(これまた変換出来ねえ)に、感動しろ、感心しろ、と強要されているようだというか、本来雄大な風景や名所旧跡、素晴らしい造作物に、いわゆる商売とかビジネスの匂いを嗅ぎつけてしまうというか、そんな邪念に塗れた男なので、そんなバカな男はほどほどに眺めて素通りすればいいのだ。
今回の目的は登山なので、ただクソ高い乗車賃の様々な種類の乗り物を乗り継いで起点に到着した、それだけのことだ。
・・・・と自分では思っているのだが、やはり名所旧跡・名物になるにはそれなりの理由があり、それを目の当たりにすると、感動してしまう自分がいる。くやしいのである。

室堂へ降り立つと、外は雨と一面のガス。
そそくさと雨支度を整えていると、すみっこの木のベンチにいた私のすぐ隣で爺婆様登山客御一行様がなにやらごそごそとザックの整理を始めた。
うーん、この距離感の無さ。これが私は大嫌いだ。なんでこうも他人のパーソナル領域を侵して平然といられるのだろう。やはり団塊世代は人口のピークであって、生まれた時からごちゃごちゃと他人の領域に土足で踏み込む生活を続けて無神経なのだろうか。そんな失礼な悪意まで沸いてくる自分にがっかりする。
そういえば、あの阿鼻叫喚の人口密度を誇る隣の大国・中国では、どこへいっても夜祭りのごとき人混みで有名だが、彼ら彼女らは己のパーソナルスペースの確保についてはまさに傍若無人の所業でその領域を確保するそうだ。どうしてもそのような環境から、行動様式がそうなってしまうのだろうか。
ちょっと似ているのかもしれない。

いつもの黄色いヤッケのフードを被り、意を決して雨の中へ踏み出す。
ところが、雷鳥沢キャンプ場方面への案内が見当たらない。きょろきょろ、うろうろ、しばらく逡巡してしまったが、ええい面倒だと見当を付けて左を向いて歩き出す。
直に方面案内の道標が出てきてほっとした。

しかし、それにしても何も見えない。雨のガスで真っ白だ。
せっかく用意してきた山座同定MAPのアプリも活躍の場が無い。
石畳の通路を、道標を辿って進んでいく。

だんだん雨が強くなってくる。雨は徐々に強風を伴うようになってきた。景色はガスで全く見えない。
地獄谷やらミクリガ池やら名所の看板があるが、近くに行ってみても僅かな水面しか見えず、ただの池としか認識出来ない。なんてもったいない。
この辺一帯は火山ガスの発生地帯でもあり、通路のあちこちにガスの探知機と警報発報用のスピーカーが設置されている。なるべく足早に通り抜けたい。

ふと、ヤッケに雨が沁みていることに気付く。
このヤッケ(アウタージャケット)はMontBell製GORE-TEX。ヒマラヤトレッキングでもメインで着た愛着ある一品。
ただし、購入から25年ほど経っている。
ふと、合わせて買ったGORE-TEXのレインパンツも雨が沁みていることに気が付いた。
さすがに限界だったか・・・
そうだとは思っていたが、ここまで本降りの雨に晒したことは無く、去年まで多少の雨ならこれでやり過ごせてきていた。
だが、もう引退の時が来たことを、この北アルプスで告げていた。

降りしきる雨と強い風の中、緩やかなアップダウンを繰り返して進んでいく。
と、ふと前方の登山道(石畳)に雷鳥を発見した。
調べてみたら、北アルプス全体では3000羽程度、この室堂一帯では300羽ほど生息しているらしい。
今回も会えて良かった。下羽が白く変わりつつあり、冬毛へ変化を始めているようだった。

変化の無い濃く白いガスの中を雨に打たれて進んでいく。
と、なにやら自分の右手が開けたエリアになり、かすかに色とりどりのテントが白い靄の中に見えてきた。
雷鳥沢テント場に着いたらしい。
行く手はまだドラゴンボールの龍の道よろしく上下を繰り返すぐねぐねのS字だが、ぐるりと右手に引き返す方向にテント場がある。
そこそこ急な長い階段を、ぐねぐねと曲がって下りて行く。
13時45分、雷鳥沢キャンプ場に到着した。

え?13時45分?
35分しか歩いていない。おかしいな、標準歩行時間で1時間5分のはずだが。何か間違えたか。私の足では標準タイムを半分で歩き通す豪脚はあろうはずがないから、たまたま違う短縮コースを取った、というより、地図上の取るべきコースを机上で間違えていたのだろうと思う。

まずは受付だ。管理小屋と思われる家屋に向かう。相当な土砂降りになっている。
小屋の表に、ザックを持ち込まないよう注意書き。この土砂降りに酷な、と思ったが、おとなしくザックカバーを上にしてそのへんに下ろしておく。
受付をして表示札を受け取り、本日のキャンプ地を決めに歩く。
すぐ近くにコンクリートの平台があり、テントが一張。トイレも近くていいなと思ったが、わざわざ他者のテント近くに張るのは無神経と思ったので、他を探す。

この土砂降りと暴風の中、既に十数張りのテントがある。
私も水場のそばの平場に、溝を掘った1x2m程度のスペースを見つけ、そこに張ることにした。

さあ、それからが地獄の設営だった。
遮るもののない吹きさらしのエリアのため、土砂降りの雨を低減する手立てが無い。さっさと張ってザックを放り込むしかない。
MontBellのULドームシェルターを引っ張り出す。ポールとペグも引っ張り出した。
シェルターの入口はメッシュを閉めてある。虫が入らないようにするためだが、雨の中でファスナーを開ける作業は地味にいらいらする。これがまた非常に生地を噛みやすいファスナーで、かなりうんざりした。そんなことをしている間にも雨はシェルター内に侵入してきているからだ。
ようやく入口を全開にして、ポールを2本の長い棒にして、シェルター内に突っ込む。そして自分もシェルターに潜り込む。
インナーポールだから仕方がないが、これが非常に毎回手間だ。しかし、いい加減にポール端をシェルター内の隅にあてがい、万が一それが隅から外れたりすると、ポール端は簡単に薄い生地を突き破ってしまう。ここは慎重にセットすることを強いられる。
なんとかインナーポールをセットして、シェルターをドーム状にした。
さぞかし雨を溜め込んだろうとドームを持ち上げて内部の水量を確認してみたが、全然溜まってなかった。この時は。
ならば、さっさとザックを放り込んでしまおう。

少し離れたところに置いたザックを持ってきて、入れる直前でザックカバーから雨滴を手のひらで拭い落とす。
そのままシェルター内にザックを入れ、自分も登山靴のままもぐり込み、入口を全閉した。
何はともあれ、登山靴を外に残しておけない。
これから全てを、この居住空間で過ごす準備をするのだ。

ザックからリッジレスト SO-Liteを引っ張り出す。
とりあえずこれでシェルター内の居場所は出来た恰好だ。
SO-Liteに尻を乗せ、まず登山靴を脱ぐ。足が攣りそうだ。登山靴は入口近くの隅へ。泥で汚れるが外に出すわけにはいかない。
レインパンツもすっかり雨を吸ってしまっている。ここまで本格的に劣化してしまうとは思ってもみなかった。
出来れば履いたままにして体温で乾かしてしまいたいところだが、このままではマットがびしょびしょになってしまう。とにかく脱いだ。登山パンツもかなり濡れていた。

いつものSカンを2つインナーフレームに引っかけ、細引きを使って衣類やタオルをかける場所を作る。狭いシェルター内だが、入口上部に2本、奥側に1本作った。
入口にレインパンツとザックカバーをぶらさげる。ぼたぼたと滴が落ちていた。

既に入口右隅は水没している。タオルを使って排出しようかとも考えたが、どんな雑菌(破傷風菌?)を拾うか分からないし、両手の薬指は何故か数週間前から謎の炎症っぽい症状でバンドエイドを巻いてるし、乾いた布をなるべく温存しておきたい。
水没部分にはプラティパスの2Lと1Lを置いた。

しかし、この土砂降りでもトイレや水汲みは必要で、外に出ざるを得ない事が何度もある。
テント泊の鑑札、トイレと水汲みで1度外に出て、またびしょ濡れでシェルターに潜り込む。

とりあえずコーヒーでも飲もう。フロアは濡れてはいるが、まだ溜まっている部分は入口右隅の1箇所だけだ。これからひどくなるだろうが、それはそれで対応するだけだ。

外気温は7度。レインパンツは脱いでいるが、ジャケットは着ている。前ファスナーを閉めて体温で温めている。目に見える湯気が立ち昇っている。徐々に水分を排出しているのだ。ある程度時間が経てば、まだ頑張っている透湿性能によって少しはマシになるはずだ。

寒くは無い。機能Tシャツ、中厚手の襟付きジオラインシャツ、それに濡れたGORE-TEXジャケット。
フリースを要する寒さは感じなかった。

天辺のメッシュベンチレーションから時々雨が吹き込んでいる。時々、非常に強い風がやって来て、シェルターの容積が半分になる。
こんなに風が強いんじゃ入口のベンチレーションからも吹き込んでくるだろうな。

ちょっとだけ、スキットルのアーリータイムスを飲む。一瞬、酔いを感じるが、すぐに感じなくなる。
しかし体には高濃度のアルコールが入っているわけで、感覚の酔いとは別に、体は酔っている。若干の熱量も期待出来るのだろうか。

米を吸水させておこう。クッカーに0.7合を入れ、プラティパスの水を適当に入れ、シェルターの隅に置いておく。

ザックの中身は現時点ではほぼ無事だ。濡れて困るものはグラナイトギアのスタッフバッグに入れ、またはZIPLOCKに入れてある。念のため、アタックザックのこれまたグラナイトギア・スラッカーパッカーに入れた。
しかし、これらは後に残念な結果となって表れた・・・

ちょっと早いが夕飯にしようか。
食糧計画通り、レトルトの海軍カレー。息子が横須賀で買ってきてくれた。
帝国海軍時代から国家機密並みの秘とされてきた、その極上のお味や如何に。

まずは炊飯。例によって底にアルミ蒸着などの無い素のチタンクッカーで炊く。
この方法もだいぶ慣れてきた感がある・・・と思っていたが、何故か今回は盛大にあぶくが立ち上ってきた。んんん??なんだ?
あらかじめ弱火ではあったが、更に弱火にしてみた。が、あまり変わらない。仕方がないので時々クッカーを持ち上げて火から離し、あぶくを鎮める。
米の頭が湯面から出てきたあたりからいつも通りになった。
蓋をしてチリチリ音がしてきたところで火から下ろして蒸らしタイム。約30分。

次にマグカップでカレーを温める。空のマグにレトルトの袋を入れ、そこに水を灌ぐ。少な目にしておかないと、沸騰すると溢れる。
カレーを一旦取り出し、マグを火に掛けて沸騰させる。沸騰したら弱火にしてレトルトパックを投入。5分くらい温める。長くてもいいが、短いとヌルいだろう、と。
熱々になったらレトルトパックを取り出して、蒸らし中のご飯と一緒にいておく。

次にサラダ。
今回はレタス、と思ったら、冷蔵庫にレタスはなかった・・・OH
というわけで、再びキャベツ。これは、ZIPLOCKに2mmの銀マットを切ったものを二つ折りにして入れ、とりあえずの保冷バッグに入れてきた。
キャベツを2枚ほどLEATHERMANのちっこいナイフで千切り(百切り?)にする。結局、BUCKでもオピネルでもなく、これで用が足りてしまっている。
キャベツは一旦マグカップに退避。

と、蒸らしタイム終了を告げるSUUNTO VECTORのアラームが鳴った。このアラームは小さな電子音で3回しか鳴らない。うっかりすると聞き逃す。
クッカーの蓋を開けて、スプーンでご飯を縦に寄せてみる。・・・うん、上手く炊けた。
縦に半分に寄せたところに、よこすか海軍カレーを投入。おおお、美味しそう。

クッカーの蓋にキャベツを盛り、シャキッとコーンとツナフレークを乗せる。やっぱり山盛りになってしまう。そこにタレビンに入れてきたドレッシング。

完成~。
とりあえず写真を撮り、LINEで息子に報告。

さて、相変わらずの土砂降りと暴風で、シェルター内は容積が半分になったりしているが、とりあえずはアーリータイムスでも飲みながら夕飯のカレーを食べよう。いただきます。

おお!美味い!
甘みが少し強く、辛さが後からくる感じ。具もごろごろで食感がいい。さすが海上自衛隊秘伝のレシピ。

トイレに行こう・・・ということは、この土砂降りの中、管理棟まで歩いていくということだ。
でも、仕方がない。
後から考えると、何故この時、持って行った折り畳み傘を使おうとしなかったのか。風はとんでもないが、止む合間もあり、タイミングを見て傘は使用可能だったように思えた。
やはり、平静を保っているように思っても、どこかしら判断に迷いや狂いはあったのだろう。

ずぶ濡れで帰ってきて、シェルター内でジャケットを脱ぐ。
なるほど、水はどんどん溜まる訳だ。シェルターの生地はツェルトと同じ通気性の無いものなので、湿気や水分を外部に排出する機能は無い。どんどん溜まる一方である。
だが、この時はまだ見た目には「あちこち濡れてる、一部溜まっている」程度だった。

もうやることも無い。19時くらいだっただろうか、もう寝てしまおう。
シュラフカバーを整えて、シュラフのジッパーを開ける。この時、非常にまずい事に気が付いた。
シュラフがなかり濡れている。
まさか、と思い、シュラフカバーの表面と裏面を確認してみると、しっかり濡れていた。いや、表面が濡れるのはこの状況では当たり前なのだが、問題は裏面。
つまり、透湿防水のはずのISZUKAマイクロウェザーシュラフカバー(ミクロテックス生地。マイクロテックだっかも?)は、25年の時を経て、経年変化で撥水性・防水性が失われていたのだ。

・・・これは無理かもしれない。この登山は、続行不可能かも。そう思った。
さすがに10月末の北アルプスで、ダウンシュラフがずぶ濡れでは、これ以上の連泊は危険だろう。
もぐりこんでみると、はっきり湿気を感じる。まだ「濡れている」と感じるほどではないが、これからどうなるか。

シュラフ&シュラフカバーに潜り込んでみると、顔にかなりの飛沫を感じる。いや、そんな甘いものではなく、時折シャワーヘッドを間違って向けられたような状態だ。
シュラフカバーが撥水されないと分かっていても、いまはこれを被って耐えるしかない。頭まで被って顔を覆い、眠気を感じようと努力する。
時々、眠りに落ちたような感覚があり、シュラフカバー超しにシャワーを一瞬感じて目を覚ます、そんな事を繰り返した。
それでも悲壮感は無かったのが不思議だ。このひどい状況を、心のどこかで楽しめていた。
外気温は1~2度。最低気温はゼロ度だったとのことだが、ジャケットを脱いで(ずぶ濡れで着て寝られる訳が無い)濡れたダウンハガーの#5にシュラフカバーで、十分に暖かかった。ホントに体温を保てているかと手のひらで体のあちこちを触って確認してみたが、全く問題無い。そのように反応しているのだろうか。
これが冬季や雪山だと、眠りに落ちる寸前に体温が下がり、寒気で目が覚めたりするものだが、まるで大丈夫だった。

0時頃だったろうか、もういちどトイレに行きたくなって起きてみたら、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
マットの周囲が水没していた。およそ水深1cmというところだろうか。
グラナイトギアのスタッフバッグに入れた食糧、撮影機材(バッテリーなど)、ZIPLOCKに入れたトイレットペーパーなどが、完全に水に浸かっている。
いずれも防水された状態であるはずだが、さすがに撮影機材はまずいだろうと思い、これも防水のはずのグラナイトギアのアタックザックに避難させた。

さて、マットの周囲の池だが、天井にぶらさげて完全にずぶ濡れになっていた速乾タオルに吸わせて入口から外に排出させてみた。
が、やってもやっても水深が変わらない。
それどころか、排水のためにちょっとだけ開けている入口から強い風に煽られた土砂降りの雨が吹き込んでくる有様だった。
そういえば、いつのまにか雨は霰(あられ)に変わっていた。尋常ではない叩きつける小粒がシェルターの側面を縦横無尽に打ち鳴らしている。

諦めてジャケットとレインパンツを履き、フードを被り、ヘッドライトを付けてシェルターを出てトイレに向かう。
ものすごいガスで真っ白。かろうじて小屋の強い明かりが見えた。
視界は前方2~3mしかない。深い水たまりを踏まないように、ゆっくり管理棟のトイレに向かった。

帰ってきてシェルターに潜り込む。もちろん登山靴のままだ。
この辺の一連の動作はもう何回も繰り返して、すっかり様式化されている。
1.表からファスナーを開ける。開けた入口は泥に浸からないように内側に。
2.四つんばいでもぐり込み、くるっと仰向けになってマットにお尻を落とす。入口付近はあらかじめシュラフなどは奥へ押しやっておく。
3.足を引っ込めてシェルター内に入る直前に登山靴で拍手の要領で、ばんばん、と泥などを振るい落とす。
4、足は左に落とし、入口のファスナーを全閉。
5.ジャケットとレインパンツを先に脱ぐ。ぼたぼたと滴を垂らしていると、マットがどんどん濡れてしまう。レインパンツは裾部分が深いファスナーになっているので、登山靴を履いたまま脱げる。
6.そして登山靴を脱ぐ。脱ぎ履きするときも必ず入口左側。汚れるのはここだけに限定しておく。
7.マットはリッジレストSO-LITEのため銀のでこぼこ表面で、凹部分に水が溜まるので、ここをタオルで拭いておく。
以上、お疲れ。

さて、相変わらずの水深1cm。この後もせっせと排水してみたが、やはりあまり変わりが無い。
クッカーなどを使ってみようかとも思ったが、万が一破傷風菌などを拾ってしまうリスクを考えると止めておくべきと思えたので、犠牲にするのは速乾タオル1枚にしておいた。

しかし、このままで寝るにはあまりにもキビシイ。シュラフカバーの防水性がアウトな今、51cm幅のマット上だけで完全に浸水した水を防げるとは思えない。

と、ふと、ツェルトを使うことを思いついた。
外からの水分の侵入は、これで防げる。
うーん、テント内でツェルトを使う。なんというシチュエーションだろうか。
ツェルトを広げてシュラフ&シュラフカバーを包む。頭の部分は被る必要がありそうなので、大き目に空間を維持しておく。
生地に通気性は無いので湿気は逃げようが無いが、外部からの水分の侵入はこれで防げるだろう。

さっそく潜り込んでみる。シュラフはもうかなり濡れていて、内側を触る掌があからさまに濡れる。
しばらくすると、体温で内部が温まってきた。と、驚くほど熱を逃がさず、暑いか?と疑うほど内部に熱を保ってきた。
これは驚いた。まあ、ツェルトが温かいことは何度もツェルト泊して分かってはいたが、こんな使い方でダイレクトに熱を感じるとは意外だった。

相変わらずしぶきが顔にかかる。これはシェルター天辺のベンチレーションのメッシュからの吹き込みだ。
風を伴った、まとまった雨だと、この構造だとあからさまな弱点のようだ。後日、雪山で同じシチュエーションの場合、シェルター内が積雪する、との記事を見た。

とにかく水分は防げているので、顔部分に空間を作って、安心して寝た。
とはいっても、ツェルトの生地越しにも雨滴を感じるほどで、時々目を覚ました。

時間はぼんやりとしか覚えていないが、確か午前2時半頃だったろうか。再びトイレに行きたくなって目を覚ました。
その時、違和感に気が付いた。あれ?シュラフ内部が乾いてる??
始めは内側の湿気も体温で温められて、水気を感じなくなっているだけかと思ったが、手のひらで、何度、どこを触っても、湿気が明らかに軽減している。かなり乾いた状態になっていた。

再び内部に水分を呼びこまないように、恐る恐る天井にぶら下げたランタンを点け、シュラフ内部、シュラフカバー内側、外側を触って確かめてみた。
やはり、シュラフ内部はかなり乾いてきている。
シュラフカバーの内側と外側は濡れている。ツェルトの内側も濡れている。ツェルト生地は通気性が無い。
ツェルトの外側がもうべちょべちょだ。吹き込み放題の雨を被っている。
これは、考えられる要因はひとつしかない。熱でシュラフ内部から湿気が排出されたのだろう。
内部より排出された水分はどこへ行ったのか。ダウンの毛が吸ってしまったか。シュラフ表面より出て行ってくれたのか。シュラフカバーが頑張って最後の透湿性を発揮してくれたのか。
それは分からない。

面倒臭い儀式をもう一度やってトイレを往復した。
せっかく乾いたシュラフの内側がまた濡れてしまったが、大したことはなかった。
ダメとはいっても、ジャケットもレインパンツもそのまま雨が透過するわけではない。少しはマシだ。
再びツェルトごとシュラフに潜り込んで寝てしまった。

朝、6時頃に目が覚めた。
雨はまだしとしと降ってはいたが、風はだいぶマシになっていた。

とりあえず朝メシを食うか、それともさっさと引き払って帰るか。
とりあえず荷物を点検してみたら、それはもう散々な状態だった。
まず、グラナイトギアのスタッフバッグとアタックザックが水分を防げていない。中身が濡れてしまっている。
撮影機材のGoproバッテリーとモバイルバッテリーは万が一を考えてアタックザックの中に着替えの半袖シャツにくるんで入れておいたので助かったが、アタックザック生地に接している半袖シャツは見事に濡れ鼠。このアタックザック、フルシームテープの防水スタッフバッグ兼用のはずだが、別の方のブログでは「使用すると背中に接している内側が汗で濡れる」ということだった。
うーーーん、期待し過ぎたのだろうか。
シェルター側面に置いておいたスタッフバッグは水深1cmに浸かり、見事水没。
Gopro HERO5 Blackは防水だから問題無いが、怖くて電池交換出来ない。

あれやこれやと点検と準備をしているうちにうんざりしてしまい、シュラフも濡れて継続不可能と判断して早々に撤収することに決めた。
雨の中の撤収だ。

ザック本体もずぶ濡れ。もう気にしていられない。中に溜まった雨水をじゃーと排出、さっさと荷造りしてザックカバーをかけ、自分も雨支度をして外へ。
ペグを外し、シェルターを持ち上げてじゃーっと排水。ああ、すっきりした。かなり重かった。
シェルターはいつも収納袋に入れていない。そのままたたんでザックの背に挟む。フレームはサイドに。
ザックカバーを被せて早々と出発可能になった。

Goproはあとどれくらい撮影可能だろう。
起動してみたら、まだそこそこ電池残量とSDカードの空きがあった。よし、帰りもそれなりに撮影していこう。

雨の中、歩き出す。そこそこの雨量だった。
残念な結果だが、色々と分かった事も多かった。
今はあまり他の事に気を取られず、室堂まで無心に集中して歩き通すだけだ。

アップダウンが長い。雷鳥沢からはかなり長い登りが続く。ゆっくり登って行く。
昨晩にカレーを消費したとはいえ、装備は雨を吸ってかなり重くなっていた。

肩に食い込むショルダーベルトを感じながら石畳の登山道を登って行くと、目の端に動く物を捉えた。ふと左を見ると、再びライチョウがいた。
うーん、よく出会うなあ。
Goproをショルダークリップから外し、ライチョウに向ける。望遠やズームなんて無いからなるべく近寄りたいが、驚かせたり怖がらせたりしないように、微妙な距離を保って撮り続ける。
かなり長い時間、ライチョウは先導するように前を歩いてくれた。お見送り?

ひたすら雨の中、石畳の登山道を歩いて室堂に着いた。まだ朝の6時半頃だ。
ちょっと入口が分からなくてうろうろしてしまった。
もちろん交通機関はまだ動いていない。

入口近くの古い木のベンチで、帰り支度をする。このままではバスに乗れない。
ザックを下に降ろすとじわーっと水溜まりになる。ぼたぼた垂れるほどではないが、もちろん座席の上などには置けない。
レインパンツを脱ぎ、ジャケットを脱ぎ、自分の濡れ具合を確認する。
上は中厚手の襟付きシャツ(ジオライン)、下は一般的な登山パンツ。
登山パンツは結構雨が沁みているが、30分ほどで雨沁みはほぼ無くなった。沁みもそんなに大したことは無い。これなら座席には座れそうだ。
ジャケットはアウト。ひどい濡れ模様だ。早々にザックにしまった。
両腕にはアームカバー。これもジオラインで速乾だが、これが意外なことに、帰りの電車に乗ってもいつまでたっても乾かなかった。
長袖シャツのジオラインは早々に乾いたが、腕に直接着けているアームガードは乾かない。なんでだ?

平日WEB切符は使用出来ないので、窓口で帰りの切符を買った。

トロリーバス、ロープウェイ、ケーブルカー、そしてまたトロリーバスを乗り継いで扇沢まで戻ってきた。
なんと、太陽が見えてきたが、雨はまだ降り続いている。
今日の午後と明日は晴れ間が見える予報、そしてその後は2日間また雨予報だ。

くやしい気持ちはあるが、どうにも出来ない。
しかし、登山続行は無謀以外の何物でもない。濡れたシュラフで標高2524mのキャンプが可能か。そんなわけない。
おとなしく帰る。

ザックからも水は滴らなくなった。が、念のため電車に乗るまでザックカバーを付けておいた。

信濃大町駅に戻ってきた。切符を買って(SUICAエリア外)来ていた電車に乗る。
松本駅で乗り換え。ちょうど高尾行が来ていたので、そのまま乗り継いだ。八王子駅で出口清算。
バスで自宅に帰った。

その日はザックカバーをかけ、ウッドデッキに置き去りにして、風呂に入って寝てしまった。

翌日、総点検である。
とにかくザックの中身を出店よろしく広げ、アウターとレインパンツは水洗い。
その他は広げられるだけ広げて乾かす。晴れでよかった。
持って行った食糧もほぼそのまま持って帰ってきた。直射日光の当たらないところに広げて乾かす。

シェルターは組み立て、ツェルトはウッドデッキのパーゴラ左右にひっかけて水洗い。

シュラフは・・・お風呂の浴槽で丸洗い。ついでにシュラフカバーも丸洗い。
シュラフは自転車置き場のカーポート下のロープを張り、水滴が滴らなくなるまで陰干しして、その後室内にロープを張って干した。1週間は干さなくてはならないとのことだが、14日たった今でもまだ干している。次の日曜日にでも畳もう。

今回は引退組がかなり出ることになるだろう。
ヒマラヤに着て行ったジャケットとレインパンツはめでたく卒業、ISUKAのシュラフカバーも引退だろう。
シェルターは風を伴った荒天では天辺のベンチレーションから雨が吹き込むことが分かった。もちろん、予報でそのようなシチュエーションの時は外すことも考えられるが、逆になんらかの方法で上部メッシュを塞いでしまえば使えるのかもしれない。
しかし、今回のような暴風雨だと、たとえ上部メッシュを塞いでも、入口メッシュからは吹き込んでくる。
このシェルター生地には通気性が無いので、どこかは開けておかなくてはならない。
まあ今回も荒天の予報では無かったので決行したのだが、そのような予報の時はそもそも中止にするのが普通だし、ツェルトでは空間が狭くリラックスできないのでフレーム付きを、という選択肢なのだから、今回で外してしまう理由は無い。
ただ、浸水対策は真剣に考慮しないと、もうシェルター内の水深1cmはごめんである。

最後に、Youtube動画について一言。

大して素材の撮れていない今回は没にしようと思ったが、こんな拙い私の動画を楽しみにしてくれている視聴者の方々もいらっしゃるので、恥を忍んで晒すことを決意した。
どうせ晒すなら、盛大に恥ずかしい場面にしようと、Goproに捉えられたダメダメな場面はほとんど余さず使用した。

やはり、大失敗の銘を冠しただけあったせいか、私のしょぼい再生数からしたら驚きの数字となっている。
みんな、人の不幸が大好きなのだ(笑)いや、失敗の素材は「自分はこんなバカはしない」という、いいネガティブ素材となりうるのだ。Amazonの低評価が非常に購入検討者の役に立つのと同じリクツだろう。

もちろん、衆目に晒したからには、批判や叱責は甘んじて受ける覚悟でいた。
予想通り、非常に耳の痛い、神経に堪えるコメントも数多くいただいた。甘んじて受け止めるのである。
同時に、温かい励ましと憐れみと、楽しんでいただけた感想もいただけた。
私のような偏屈なオヤジにはもったいない限りで、手を合わせたくなる気持ちだ。

しかし、やはりというか、反対に、こんなバカは嫌いだという罵りの声もそこそこ混じっている。
いつもの当たり障りの無いアウトドア動画と違い、今回はかなり酷い失敗動画なので、当然そのような声もある。
低評価も自分で困惑するほど割合が大きい。
だが、嫌悪を向けられたコメントに関しては、返事を返すことは非常に躊躇われ、何も返せない。嫌悪に対しての反応はやはり同じく嫌悪や敵意にならざるを得ない。わざわざ火に油を注ぐ行為になる。
基本的に大したことないチャンネルなので、わざわざコメントをいただけた方々にはお礼も含めてレスを書かせていただいているが、今回ばかりは、そのような自分に向けられた嫌悪感に対しては沈黙をもってする他は無かった。残念だ。
もっとも、私もそのような嫌悪に対して平静でいられるような器の大きな人間では無く、反論のひとつも返したい気持ちは山々なのだが、わざわざ無謀登山動画を載せて、それをなじられたら逆切れするなんて、あまりにもカッコ悪いではないか。
便所の落書きと誹られた2ちゃんねるは、また社会の構成を成す大人の社会でもあった。その2ちゃんでも散々言われていたではないか。
「荒らしはスルー。餌を与えるな」
今回は馬鹿な動画を載せた私に負も正も原因があり、批判も叱責も、励ましも笑いもいただけたが、同時に罵倒や嫌悪もやって来たのである。
それも甘んじて受け止めるのが、投稿者である私のやむを得ない態度だろう。
だから頭のいい人は、こんなバカな動画は掲載しない。もっと頭のいい人は、編集で楽しい動画に仕上げる。
私はそのどちらでもないから、ありのままを乗せ、全てひとつひとつ読ませていただいている。

ああ、神経にこたえるなあ。

7 件のコメント:

  1. 楽しみに拝見しています。ブログは初めて来ました、YouTube動画を見ていましたが、今度からココでブログを読んでから動画を楽しむのも良いかもと思いました。ありがとうございます。

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    1. ありがとうございます(*´ω`*)
      いつもは動画をアップしてからブログを書き始めてます・・・
      自分の活動が自分にとってどうだったかは、かなり赤裸々に書いていますので、結構本音が出ちゃってます。
      さすがに今回動画は刺激的な失敗場面もあったことで、なかなか辛辣なご意見や罵倒も多かったです。
      辛辣なご意見については涙をこらえて真摯に受け止め反省するよう自分を戒めましたが、罵倒はさすがにお返事のしようがなく、今回はブログへのリンクを見送りました。
      火に油を注ぐ結果になると思えましたので・・・
      これからもこのブログには素直に自分の有様を書いておくつもりでいます。
      またよろしくお願いします。
      ( ´ー`)ノ

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    2. お返事ありがとうございます。
      失敗できることも羨ましい限りです。私は零細商店の貧乏暇なしで山に行くこともできず、壱号さんを自分に重ねて楽しんで拝見しています。違うところは、あなたがとても大切に物を使っていること。すぐに新しく買ってきてしまう私には耳が痛いです。応援しています。

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    3. こんにちは~、ありがとうございます(*´ω`*)
      私が古いものを使い続ける理由に「新しいモノで欲しいものが少ない」という理由があるのかもしれません・
      これはまだ内緒ですが(笑)昨日と今日、また剱岳アタックに行き、予報を大きく裏切って突然の雪になり、あっという間に雪山モードになってしまい、撤退してきました。
      その時、降りしきる雪の中、あたらしい7千円の中華アウタージャケットを使ったのですが、新品にもかかわらず、肩が沁みてきたのと、来る途中に異様に熱気と湿気を感じて「これは透湿してないな」と気づきました。もちろん、降雪の中のシェルター設営で防水もアウトなのがバレました。
      謳い文句では「耐水圧10000mm!透湿度10000g!」でしたが、さすが中華クォリティ。(´;ω;`)
      黄色いモンベル・アウターをダメ元で復活の呪文してみようかなあ、と。
      いま撮影ファイルを整理中で、それからまた再度恥を晒す予定です(;^ω^)
      またよろしくお願いします( ´ー`)ノ

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    4. またまた、お返事ありがとうございます。この頃は壱さん登山が本格的になりましたね。期待してますが、十分お気を付けください。独りじゃないですよ。
      中華ジャケットですが、私も数々失敗していて人ごとではないですが、それって、安物買いの銭失いってことじゃないかとこの頃、思います。反省。

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  2. 楽しみに見ています。今回の動画やブログは、過ごし方や装備の事でいろいろ勉強になりました。ありがとうございます。

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    1. ありがとうございます。(*´ω`*)
      自分も勉強になりました。
      また同時に、今回に懲りて過剰装備になると、「重すぎて行動が制限され行ける山にも行けなくなる」と気が付きました。
      あんな目に合うとつい厳重装備に気持ちが触れるのですが、なにが必要か、不要か、考えさせられるいい経験だったと思います。
      願わくば、あんな目に合うのは何人もいて欲しくないので、この動画に晒しておきたいと思います。
      ブログは本音が出ちゃいますが・・・(;゚∀゚)
      またよろしくお願いします。
      (・ω・)/

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