2019年10月26日土曜日

4_剱岳 アタック

2019年8月7日

今日はここへ帰ってくるので、逆に準備は気が楽だ。が、まさかの降雨なども予想してほとんどの物を防水バッグに入れた。
この時、悲劇は起こった。

コレに一緒にしまっちゃった (´;ω;`)

間違って、アマチュア無線機、カロリーメイト(昼食)、Goproバッテリーとメモリーカードを入れたスタッフバッグを防水バッグに知らずに入れてしまっていた。


すぐに取り出せるようにサコッシュにバッテリー2個とメモリーカード2枚は入れておいたので、完全に記録が途切れることは免れたが、Goproは頂上でバッテリー切れで、帰路はスマホで静止画を撮り続け、それも剱沢ベースに帰着する直前で電池切れとなった。
問題はアマチュア無線機だ。これは致命的になり兼ねないので、大いに反省。
幸いというか、剱岳は行程中に切り立った尾根の左右の片側からキャリアの電波を拾うので、スマホはところどころで通じる状態だった。が、それも雪渓側に滑落したらアウトである。

と、出掛けに小雨。ちょっと様子を見る。
30分ほどで止んでくれた。
外へ出ると、虹がかかっていた。


AM 5時32分
さて、重大な忘れ物をしたとも知らずに、サブザックを準備。プラティパス2Lと1Lに分けて水を2L入れ、サブザックの右ショルダーベルトにドリンクホルダーをセットし、600mlのペットボトルを持つ。
サコッシュを持つが、登山路が険しくなったらサブザックに退避させる。
三脚は持っていかない。
ヘルメットをする。先行者が蹴落とす落石は今回無かったが、ほぼ90度の鎖場をよじ登るところで出っ張った岩角に頭をぶつけたりしたので、必須装備。
そのヘルメットにGoproをもふもふ風防でセット。
出発。

剱澤小屋へ下りる。途中さっそく雪渓を横断するが、踏み跡がしっかりしているのでアイゼンは不要だった。

雪渓を渡る

脇を通り越して雪渓をいくつか渡り、剣山荘へ。昔は剱や剣など古字や常用漢字が混在していたが、2004年に地元の富山県上市町や立山町の要請で「剱」に統一されたとのこと。

剣山荘

その剣山荘の脇を通り、いよいよ山域に踏み込む。
いきなりガラガラの急な登りだが、この辺はやや急なくらいでそれほど緊張しない。

斜度はかなりある

しかし、息を切らして登っていくうちに、やがて手を使わないと登れない岩場が増えてくる。

もう二足歩行じゃ無理

一服剱によじ登る。

一服剱。ここも高度感が凄い

この一服剱を過ぎると容赦ない鎖場が増えていく。
高度感も相当なものだ。
序盤戦はまだ元気なもので、いわゆる玉ヒュンな鎖場を、鎖に触れもせずに登り、下る。

鎖を掴まないほうがぐいぐい登れる(場所によります)

これでもクライミンググレード5.11bのヘボクライマーだ。

画像ちっちゃ過ぎ (´・ω・`)

(5.11bは「ようやく初心者脱出」程度のホントにヘボクライマー)
むしろ登りは、そんな勢いでどんどん登るものだから、直に先行者に追いついてしまった。
前方には人生の先輩達が鎖場に取り付いている。クライミングハーネスを装着し、ヌンチャク(スリングベルトの両端にカラビナをセットしたもの)で鎖場の鎖の1ピッチごとに固定、離脱、固定を繰り返して登っている。こりゃ時間かかるなあ、と思ったが、そんなことはない。さすが登山の先輩方、その方法でするすると登っていく。
すげえ。
ひとつふたつ、鎖場を通過し、若干マシになった尾根を歩き、また岩場に差し掛かった時、何故か周囲に誰もいない一人きりになっていた。
たまたま前後の人とペースが合わず、隙間が出来たのだろう。
前方の岩場を見渡す。剱岳の登山路はコースが分かり難い場所が多い。ここもそうだった。
見る限りは右の雪渓側を通るように指定されているように見えた。踏み跡もそれっぽく見える。

どう見てもこっちがコースに見えるが・・・・

ところがこれは間違いで、もっと左寄りの上部が安全なコースらしかった。
雪渓側、つまり崖斜面側へ私は踏み込んだ。それほど危険には見えず、というか、剱の登山路はどこもこんなだが、いつもより若干危険な気がする。
そして、このいつもより若干、は、「踏み外すと即滑落」をここでは意味していた。
私はぞっとした。ほんの僅かに逸れただけだったが、ここでは場合によっては致命的になってしまう。
剱岳登山の「致命的」は、本当に命がかかる。決して脅しや比喩ではなく、ここでは幾人ものベテラン登山者が命を落としているのだ。
・・・・なんとか上部によじ登って事なきを得た。

こっちかいな

人が多くいれば、その人たちがどこを通っているか、それを辿ることが出来る。しかし、完全に周囲に誰もいなければ、そして通過するべき安全な場所を指し示す「○」印が見いだせない、あるいは複数ある(そのような場所も多かった)のであれば、通過ルートは自分で判断するしかないのだ。
これは初見あるいは初心者には無理で、下手したら踏み外して命が無い。ここでは大げさな表現では決してなく、ホントに命が危ないポイントだらけなのだ。

武蔵のコル(コルは連続する尾根上のピーク)、前剱大岩、前剱、と辿っていく。どれも非常な緊張を強いられるほぼ垂直な岩場が多い。

武蔵のコル

標高は既に2800mに近づいている。

そして、実はここからが剱岳の核心部分になる。平蔵のコルだ。
有名どころはカニの縦バイ。縦バイは往路、横バイは復路、というように一方通行になっている。
どちらも怖い。
しかも、その縦横だけでなく、「えーと、足をかけるポイントは・・・・あれ?どこだ?」という箇所も少なくない。
それが連続して現れる。

アップダウンの繰り返し

頂上が近い。近いから、より斜度がきつい。
登山靴の先っぽをかけるような箇所もろくに見当たらないような鎖場も出てくる。
慎重に、慎重に。

カニのタテバイ(往路)

もう連続した鎖場をよじ登り過ぎていて、注意力も散漫になっている。
高度も3000mに近い。自分は興奮してあまり感じないかもしれないが、体に取り込む酸素も微妙に少なくなっていて、それは平静さや判断力にも微妙に影響を与えているはずだ。

ほぼ垂直に17m

苦しい連続した緊張を強いられている環境だ。なおさら、自分の状態を見極める感覚が必要になる。
いつもあまり使わない腕の筋肉疲労は?こんなによじ登る動作をしたことは稀な足の筋肉疲労は?
ここでは、「あっ」と思ったら滑落してしまう。それが起これば、ただでは済まない。ヘリで吊り上げ搬送出来るのだろうか。こんな急峻な岩場で。

高度感ヤバイ

そんな緊張の連続した岩場もようやく抜け、ビル解体現場のようなゴロゴロの斜面を登る。
すると、目的の頂上が見えてくる。
コチラ側から登ると、祠の裏側なのね。お邪魔します。

AM 9時33分、剱岳に登頂。

剱岳登頂

ちょっとガスっているのが残念だが、感無量だ。
まあ、それにしても人の多いこと。それも、年上ばかり?
私だってそんなに若くはない。が、とにかく年配の方が多かった。
なにはともあれ、少しの写真を撮る。珍しく、自撮りも少々。

滅多にやらない自撮り

さて、下山の準備も整えなくては。
Goproは電池が切れた。途中でバッテリーチェンジの時に念のためにとザックをまさぐって忘れ物に気が付いたのだった。
しょうがない。下山はスマホで静止画かな。

と思ってスマホを取り出したらアンテナが4~5本、ばっちり立っていた。
家族に「剱岳に登った」とLINEを送る。

ペットボトルに水を補充。
Goproはヘルメットから外してザックに仕舞った。
もう一度、山頂の風景を目に焼き付ける・・・・とはいっても、人だらけだなあ。

AM 9時54分、下山開始。
今度は下りの鎖場の連続になる。余計にキツイ。

登山の事故は下山時に多い。これまでの岩場で足も腕も相当筋力が疲弊しているはずだ。
それを肝に銘じて下山しよう。

とにかく剣山荘直前まで岩場の連続な山だから、一瞬も気が抜けない。
ホントに厳しい山だな。

頂上から下り始めも斜度がきついが、すぐに剱岳復路の最大の難所、カニのヨコバイが現れる。
崖の斜面に渡した鎖を辿り、横に這いながら(トラバース)下りていく。
足元の靴先をかける部分も相当に怪しい。
が、高度感に惑わされず、宙に浮く体のバランスをとって解放した足先で探ると、意外に楽な踏み所が見つかる。
恐怖心に支配されてはダメだが、崖の斜面にへばりついている高度感は相当なもので、ヤバい人はクライミングハーネスとスリング、カラビナで、渡された太い鎖に掛けながら安全を確保して進んだほうがいい。いくら手間でも命には代えられない。ここは、幾人もの犠牲者が出ている難所だということをしっかり意識すべきエリアなのだ。
実際、そうして一歩づつ確実に下りていく団塊世代の先輩達グループもいた。

カニのヨコバイ(下山路)

結構長いヨコバイの難所を通過。ホッとするのも束の間で、今度は垂直なハシゴが現れる。これも相当なおっかなさだ。

なんだこのハシゴ・・・

そしてまた鎖場。下山路もこれの連続である。

ようやくにして難所の連続である平蔵のコルを抜け、前剱まで出る。
と、ここでガスが濃く巻かれてきた。
見る見るうちに10m先が見えなくなる。否も応もない。その場で適当に腰を下ろし、水を飲み、ついでに補給食。
両側は切り立った崖だ。これでは身動きが取れない。

み、見えない・・・

ガスは直に晴れた。
前剱から別山尾根、武蔵のコルを経て一服剱までも、まだまだ鎖場の連続だ。時には垂直に近い登りも出てくる。
いいかげん握力も心配になってきたので、鎖場では滑り止め付き軍手をした。これで全然違う。非常に楽になる。
高地(2600mくらい)とはいえクソ暑い炎天下だが、安全には代えられない。
そういえば、だいぶ足も上げ難くなってきている。やはり腿やふくらはぎの筋力が相当落ちてきているのだろう。

なんとか一服剱までたどり着く。ここは小ピークになっていて、気持ちがいい。が、ちょっとガスっていて眺望はなかった。残念。
給水と行動食。かなり意識してたくさん摂るようにしている。

さて、次のポイントは剣山荘だ。厳しい剱の岩斜面はもうすぐ抜ける。とはいえ、まだ標準歩行時間で30分の下りだ。そしてここでも手足を要する岩場の連続だ。
最後まで気を抜かないで下る。

ようやく、ようやく剣山荘が見えてきた。

あ、剣山荘見えた

どうにか下山出来てきた。
最後の足元の悪い、それでも「手を使わずに歩ける」下りを歩いていく。

そして、剣山荘の横を通り越す。
まだここから、剱沢キャンプ場までは40分あるのだ。

と、ここで何故か方角を間違える。右へ逸れ、剱御前方面への登りへ向かってしまった。
気が付いたのは、往路に通ってきた雪渓が左方向に見えたことだった。
アタマが朦朧としていたのだろうか。いや、本人的にはそんなつもりはなかったのだが。危ない危ない。
待てよ違うぞと気が付いたところで、スマホはあえなく電池切れ。

スマホ下山路最後の仕事

サコッシュに仕舞う。
そして、来た道を引き返す。
だいぶ引き返して、改めて方角を確かめ、雪渓方面へ。と、雨が降ってきた。
小雨ならここまま行っちゃえと思ったが、あれよあれよと本降りになった。
慌ててザックからレインウェアを引っ張り出して着る。
モンベルのトレントフライヤー上下はこれが初仕事だ。
ザックは防水のはずだが(内側にシームテープ処理されている)なんとなく信じられなくて、ザックの上からレインジャケットを羽織った。
雪渓を横断していく。足元は悪いが、凍ってつるつるなわけではない。普通の雪道と同じだ。
いくつかの雪渓を渡りきると、最後にキャンプ場までの急登になる。

私は自転車通勤で透湿性の無いカッパを常用しているので、カッパの暑さは身に染みている。
ここまではさほどの登りはなく、大して暑さは感じなかったが、この急登はどうか。

雨は相変わらず本降りだ。
フードも被り、ゆっくりと急登を登っていく。
やはり暑い。暑いが、あれ、こんなものか?雨でナチュラルな水冷エンジンになってる?
そりゃこの登りをカッパを着て登るのだから、暑くないわけがない。汗もかく。
しかし、なんというか、いつもカッパで自転車を漕いでいる、あの強烈な「蒸れ」をさほど、いや、ほとんど感じない。
無いわけではないが、びっくりするような透湿性を発揮してくれているらしい。
雪の雷鳥沢で中華アウターの透湿性の低さで驚くほどの熱と蒸れを感じたが、これは逆だ。

そして、ようやく雷鳥沢まで帰ってきた。

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