キャンプの時、そのキャンプ場にだーれもいない一人占め状態だったらうれしくありません?
単独登山の原動力は、それです。
2016年の不明および遭難死は319名、そのうち単独者は184名(58%)、複数者は135名(42%)。
救助者も含めた遭難者全体は2929名、うち単独者は988名(34%)
平成28年における山岳遭難の概況
平成29年6月15日
警察庁生活安全局地域課
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/chiiki/290615yamanennpou.pdf
これが実態である。
この結果を見て単独登山が比較的安全だとは言わないが、どうだろう、世間にイメージされる単独登山の危険性がいかに恣意的にイメージ付けされているものかが良く分かる。
中には「山で行方不明になる者の9割以上は単独登山者」などと書かれている情報もあるが、嘘っぱちもいいところだ。
残された家族は、とか、色々と社会的責任にかこつけて言われるけど、それは単独でもグループでも同じ事。ましてや不明および遭難死の割合がどっこいどっこいじゃ、ことさら単独者のみ悪し様に罵られるのは納得がいかない。
単独かグループかの議論は昔から散々に言われ続けていることで、万が一の事故時のリカバリーではグループのほうが生存率が高いに決まっている、と言われ続けている。
ホントか?
山での事故は、道迷い、滑落、転倒での骨折や病気、天候悪化、雪崩や落石など。
・道迷い
グループだから防げる、なんてことはない。ベテラン登山者がいればその人のルート取りレベルなわけで、その人に着いていくだけだ。そのリード者が迷えば、残りももれなく迷うことになる。
初心者や中級者の単独の場合、それはそもそも行動の基準を自分のレベルに合わせるべきであり、道迷いの危険性のあるルートを選択してしまう時点でベテランだろうがシロウトだろうが、その者の選択の間違いなだけなのだ。
ベテランでも迷うときは迷う。事例は初心者だろうがベテランだろうが枚挙に暇が無いほどある。
迷ったときの行動原則も同じだ。基本は来た方向へ引き返す。原則は上に登る、沢に絶対下りない。
道迷いのベテランなら、どうすべきか的確な判断が出来るだろうが、そもそも道に何度も迷う人はその行動指針に問題があるとみるべきだろう。
迷った場合、ベテランでも初心者でも、焦り方はほぼ同等であり(どちらも大して道迷いの経験が無い)、次に行動するべき指針も同じだ。そこに差はほとんど無い
そして、これがグループだった場合、意見百出するのは目に見えている。また、もう引き返したほうがいい、という決断もグループでは言い出せないなどで遅れるのが普通だ。
むしろ単独のほうが「あれ?」と思った場合の決断は非常に早い。
・滑落
間違いなくグループが有利なのは「助けを呼びに行ける」こと。これは反論の余地が無い。
もし2名のグループでそのうちの一人が滑落し、救助が必要な場合、もう一人が助けを呼びにいくことになる。その場合、その一人は間違いなく単独行に早変わりするわけだが、まあそれは置いといて。
誰か滑落したらどうするか。見える範囲ならば励まし続けることくらいは出来るだろうが、はっきりいって気持ち的に若干ラクな気がするだけで、それ以上のことは出来ないだろう。下手に助けに降りようなどとすれば二重遭難になってしまう。
事故者が意識朦朧だったりすれば単独ならまずアウトだろう。
はたして何時間かかるか分からないが、同行者は下山または山小屋に行き、救助を要請しなくてはならない。
少なくとも正確な位置の把握は必要だろう。GPSやスマホ(GPS位置が取れるアプリなど)があれば可能だ。
それが出来て、スマホの通信が可能だったり、無線機を持っていたりすれば、それは単独者が自分で救助を要請することでも変わりが無い。
もちろん、電波圏外だったり無線を持っていなかったり、そもそも意識が無ければアウトの可能性大で、意識があるなら定期的に時間を決めてホイッスルなどを鳴らし続ければ(たとえば15分間隔で30秒間断続的に、1時間4回をベースに繰り返す、など)もしかしたら誰かに発見されるかもしれない。
しかしこれは考えてみれば単独だろうがグループだろうが、無線やスマホで救助要請するのであればどっちも同じわけで、「誰かが助けを呼びに下山あるいは山小屋あるいは電波圏内に歩いて行く」以外に差は無いわけだ。
意識喪失とその場での連絡手段無し、の場合に、グループでのリカバリー可能性がある(その場合も確実に出来るわけではないことは下に記した)
・転倒での骨折や病気
これはイコール上記の滑落と状況が同じだと考えるべきだろう。
要救(要救助者)を担いで下ろす、なんてのは訓練を積んだ救助隊や自衛隊員くらいだ。
グループであっても助けを呼びに行くくらいしか出来ることは無い。
・天候悪化
急変した場合はどうしようも無い。比較的風や雨や吹雪がマシな場所に移動してツェルトなどを被ってやり過ごすしかない。
その場合の決断は前述のとおり、意見百出してまとまらないグループより単独者のほうが早い。
・落石や雪崩
天候悪化と同じだ。怪我や不明者が出た場合は救助要請も同じだ。
・・・・・こうして見ると、単独とグループでは、登山中の事故に対する対処では、驚くほど差が僅かだ。
唯一、「助けを呼びに行く」という点が違うだけだ。
そう。これが実態なのであって、登山中の実際の行動様式を現実に即した判断に照らした場合、たったこれだけの差異となってしまう。
ちなみに、「一緒にいて励まし合う」という事がよくクローズアップされるが、果たして単独者にそんなものが必要だろうか。
一人になりたいから単独登山なのではないだろうか。
実際にいざ登山中に危機感を強く感じた場合、単独では相当な緊張感と共に「なんとか冷静に正しい判断をしなくては」という意識が働き、あまりの恐ろしさに気が狂ったり、パニックになってとんでもない行動になってしまうことは余程のことが無い限りない。
グループでも同じだが、ただひとつ、グループの場合には人間関係の悪化による行動判断の困難、それに「集団ヒステリー」という要素が加わる。
私には単独のほうがむしろ安全な気がするくらいだ。
あ、ひとつだけ。
グループだと「互いの体温を利用する」ということが出来る。これは、冬、早春、晩秋など気温の低い季節で低体温症を防ぐ有用な手段だ。
機会があればやってみると分かるが、シュラフなどでくっついて寝ると相当に暖かい。
私は息子で1800mのテント場で試したことがある。
単独についてはことさらおススメな訳では決してない。むしろ向き不向きがはっきり分かれると思うし、平穏な山登りがヤバい状況に一変したときの悲壮感は相当なものであり、普通は誰かと一緒にいたほうがその場をなんとか切り抜ける勇気も出やすいのではないだろうか。
そうではなく、大した根拠も無くイメージで単独行を悪し様に言われることに腹が立つ。
グループ登山のメリットとしてよく言われるのは
・複数人で考えた方が多彩な角度から判断が出来て、客観的である
登山の様々な状況把握とは天候、気温、ルート状況、体力、技術レベル、メンタル、など、どれもシンプルなもので、天候がヤバそうなら近くの山小屋に変更、メンタルがヤバそうなら中止して下山と温泉、など、複雑な要素を絡めて俯瞰的に判断することなどほとんど無い。
上記のように意見百出してまとまらず、ずるずるとヤバいまま続行するのがグループの特徴といってもいいくらいで、皆の知恵を絞って山登りする、なんてことは普通はあり得ない。
・単独だと無理をしたりオーバーペースになりがち
逆である。単独ではペースはいくらでも自分で決められるし、そもそも誰も援助者がいない状況で無理をしようとするものはほとんどいない。
むしろ、皆のペースに合わせて無理についていこうとするのがグループ登山なのだ。
・いかなる事態も助けが無い
グループ登山で出来ることは上記のとおり「助けを呼びに行く」ことくらいだ。それが出来る限り、単独もグループも変わらないとは言わないが、登山届による下山時期の申告、無線、電話(スマホ)など、単独でも出来ることはある。唯一、仲間が時間的(日没など)に下山可能、近くの山小屋まで到達可能(時間とルート把握)、電波圏内へ出ての救助要請が可能(圏内場所の把握と時間的に到達可能か)の場合のみ、徒歩での救助要請が可能な場合のみである。
・荷物が重い
それは単独行の計画であり、担げなければ実行は不能と判断しなければならない。
そもそも登山はグループか単独かによらずザックの中身は己の自助で完結できなければならない。ツェルトを持った仲間が滑落したら残った者はどうするのか。
単独といっても特に用意しなくてはならない装備はそうは無い、また、グループで分割出来る装備はテントなど?そもそも複数人入れる3kgのテントなら、単独で担ぐ一人用1.2kgのテントも、分割したとしても大して変わらない。
・最大のデメリットは孤独(寂しい)
単独者は何をしに一人で山に登るのか?
考えてみれば、単独登山が世間に受け入れられる余地はほとんど無いといってもいいのだろう。
だが、実際には単独登山者は増加傾向であり、単独を指向する人が増えている。
登山にはリスクがつきものであり、それはグループの場合、単独の場合、どちらにもあり、そしてそれぞれに違うリスクが存在している。
どちらもリスクなのである。
それは、リカバリー不能な遭難、というリスクなのだ。どちらにも存在している。
単独だと致命的、というものはイメージされているより僅かであり、むしろ単独ばっかりやっている私は、グループ登山の場合のデメリットそしてそれが非常時にリスクに大きく変わるのが目に見えるようだ。
樹林の崖を仲間が滑り落ちた時、あなたはどうするか?何が出来るか?
それは、恐らく驚くほど選択肢が無いことに気が付くだろう。
単独も同じだ。だが、グループ登山と同じく、目立つ黄緑色のツェルトを広げ、アマチュア無線で非常コールし、ホイッスルを吹き鳴らすことが出来ることも同じだ。
まだまだ単独登山者に向けられる非難がましい視線は弱まらないと思うと、少し憂鬱な気分になる。
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