これより、甲斐駒ケ岳2,967mを目指す。
出発
薄暗い樹林帯を登っていく。少しづつ、渓の音が遠ざかっていく。
やや急な登りをしばらく行くと、前方が明るい色になってきた。ん?なんか開けてる?
しかしそれは、非常に大きな面積の、落石で埋め尽くされた岩稜の斜面だった。
めっちゃガラガラ
Oh、ちょっと怖い風景だぜ・・・こんなもの、崩れてきたら一巻のお終いである。
右に折れて岩稜の斜面沿いを行く。どこまでもどこまでも続いているように見える。
既に樹林帯を抜け、石と岩だらけの斜面エリアになっている。
ところどころに積み石(ケルン)がある。
岩稜の上を歩くコースはやや幅広く、通れるコースはいくつかありそうだが、大して大きくない岩や石は乗るとぐらりと動くものも多く、なるべく安定したところを通りたい。
荒涼とした岩稜のコースを○時間ほど歩き、いい加減抜けたいと思う頃に仙水峠に出た。
仙水峠
05:37、峠より雲海を目の下に見る。なかなか壮大な景色だ。
少し休憩した。
視線を左に転じると、再び樹林帯の中に入っていくのが、甲斐駒ケ岳に通じるコースらしい。
もう夏とはいえ、昨日は雨に降られたので、出来れば陽の射す明るい樹林の涼しい木陰を行きたいが、ぜいたくは言えない。
さっそく踏み込むと、これが結構急な登りだった。
一定のペースを意識して登っていく。やや不明瞭な踏み跡が多いが、方向ははっきりしている。ここから駒津峰まで1時間30分らしい。
しばらく登ると、若干樹林の背が低くなってきて、陽が当たるようになってきた。
ここで、ふとザックにソーラー充電器をくくりつけてGoproバッテリーとモバイルバッテリーを充電しようと考えた。
実はまだ若干雨がぱらついていたりはするが、早目に準備しておいて損はないだろう。
どうにもくくり付け難かったが、なんとかザックの背に固定した。
それにしても長い。そして急登で、岩ごろごろで歩き難い。
息を切らしながら、どんどん登っていく。少しづつ低くなっていく樹林は変化を見せるが、早く抜けたい気持ちのほうが焦る。
おそらく、私はここで体力を使い過ぎたのだろうと思う。
急登、10kgのザック、まとわりつく小バエや虫から逃れたいためにペースが無理に早くなっている。
更に、これまでの経験から1日行動だと1Lの水(粉末アクエリアス)で余るくらいだったが、全行程を終えてみるとあからさまに足りなかった。
プラティパスのハイドレーション(ホーサー)は1度に吸える水量が少なく、結果的に消費する水分量に対し摂取が圧倒的に不足していたんだと思う。
もしかしたら、いつものペースであれば、登りはそこそこ水分を消費するが下りはそこまで消費しないので、1Lで足りたのかもしれない。
樹林帯の終わりくらいから甲斐駒ケ岳が見えた
しかし、この樹林帯を抜け、駒津峰に到達するのに、どうもいつもより体力の消耗が激しい感じがしていたし、駒津峰から望む甲斐駒ケ岳の威容も圧倒的で、精神的なプレッシャーをかなり受けていた。
07:50、駒津峰に到着。標高2,740m。
いつもなら滅多に取らない大休止をここで取った。
行動食・・・・・樹林帯でも食べてきたが、今回の行動食はいつものミックスナッツと甘栗むいちゃいましたをZIPLOCに入れていたが、なぜかミックスナッツがベタベタのヌルヌルになっている。えええ???今までこんなことなかったのに。気温が高いとこの方法はダメ?おそらく甘栗から出た水分をミックスナッツが吸ってしまったのだろう。
しかし、樹林帯の登りから体がエネルギーを欲している。多少、嫌な食感でも、こいつを食べなきゃエネルギー補充出来ない。意を決して貪り食う。
体の異変は樹林帯から少しづつ感じていた。
息が切れる。激しく切れる。高度のせいか?既に2,500mを大きく超えている。
立ったまま膝に手をついて休み、呼吸を整えてから上半身を起こすと立ちくらみがする。
なんとなく軽い吐き気がするような気がする。
オーバーペースで消耗し過ぎた?
十分に休んだ、と自分で思えるくらいに駒津峰で休憩し、再びザックを背負い直して六方石から甲斐駒ケ岳を望む。
恐ろしくもある。六方石まではナイフエッジっぽく見える。が、実際はそれほど細い道ではない。
その向こうに甲斐駒ケ岳。低木を含めた樹林や植物のほとんど生えない、剥き出しの花崗岩から成り、峻嶮に見える。
もちろん、初心者でも登れる山ではあるので、ロープクライミングの技術などが必要なわけではない。
07:59、出発。
駒津峰から六方石へ、まずは足場の悪い、大きな段差の4~5mほどもある岩壁を、手足を使って下る。
その後はこのような数m程度の岩壁を登って下りての繰り返しだ。
手を使わずに上り下り出来るところは皆無に近い。もちろん、失敗して落下すればタダでは済まない。
登って、少し平行な細い岩稜の背を歩き、下り、また歩き、また登る。
かなり大き目のムーブを要する場所もある。が、軽く小さ目なザックなら僅かな垂直に近い壁を半分すべり降りる、ということも可能だったろう。私は10kgの大ザックを背負っているので出来ない。
フリークライミングの要領でやり過ごした箇所も多かった。
と、ふと重力に負けて岩壁から体が引き剥がされそうになった。うわわわ!!!危ねえ!!!
かなり慎重に登り下りしていたはずだったので、冷や汗が出るほど焦った。
・・・やはり、何かおかしい。いくら10kgのザックを背負っているとはいえ、いつも侵さない程度のミスが目立つような気がする。
この時、私はそう思った。
08:35、六方石に着、甲斐駒ケ岳を見上げる位置に来た。
六方石を抜けると、分岐。
岩にペイントがある。左、直登。右、巻き。
もちろん、直登、と行きたい。情報ではこの直登は「高度感はあるが初心者でも十分登れる」とある。
凄い急登に見える
なんということだろう、私は今回、甲斐駒ケ岳の情報をあまり調べてこなかった。
それは、少ない事前情報で、現地についてからわくわくしたい、という思いからでもあった。
GAMEの攻略本などがキライで、真新しい経験を楽しみたい。映画のネタバレも嫌いでCMも見たくないのだ。
しかし、この時、私は感じていた。「今日はこの直登は自分には危険かもしれない」
結局それは当たっていた直感だった思う。少なくとも、今回の私では10kgのザックを背負って、こんな体の状態とめげ気味の精神状態では、直登は危険だったろう。
もっとちゃんと事前情報を調べていれば、こんなグダグダな登山にならなかったのかもしれない。
私はこの時、、リアルにこう思っていた。
「舐めプしてっから、こんな目に合うんだぞ。巻け」
とても直登にチャレンジ出来る精神状態ではなかったので、素直に右の巻き道から行くことにした。
だがしかし。後からちゃんと調べてみると、この「巻き道」そこが標準的なルートになっているらしい。どのルート地図にも、こちらが案内ルートとして記されている。
そして直登のほうは、点線道、あるいはちょっとしたチャレンジルートとして記されている。
こんな後追いの確認も、舐めプの報いだ。
後悔と反省に頭を押さえ付けられ、直登ルートに後ろ髪を引かれつつ、右の「巻き」へ向かう。
08:40、巻き道へ。
巻き道というからには、遠回りであっても穏やかに確実に甲斐駒ケ岳山頂まで導いてくれるのだろう・・・・と思っていたが、とんでもない!
甲斐駒ケ岳の巻き道はそんな甘いものじゃなかった。
いきなり、駒津峰から六つ石までの岩壁に勝るとも劣らぬ絶壁が現れる。こりゃ、かなりスリリングだぞ・・・
その後も、全体的なアップダウンこそ少な目とはいえ、岩壁の障壁は次々と現れた。
なかなかエグい巻き道だな、こりゃ。
ようやく植生のある迂回道を抜け、つるんとした東斜面に出た。
逆に、ここからは植生の何もない、逃げ場の無い陽に晒された長い登頂ルートになる。
細かい岩と砂地の斜面となり、斜度もぐんときつくなった。
ペースに注意して少しづつ歩を進めて行く。
もう体調不良は明らかだった。
激しく息が切れる。
ザックが重い。
上半身の上げ下げで立ちくらみがする。
吐き気が強くなっている。
吸い難いハイドレーションで必死に水分を取りつつ、時々は堪らなくなりザックを下ろして休憩した。
しかし、それでも気分は楽しかった。
斜面を吹き抜ける、高度のある涼しい強い風。
変化に富んだ、大小の岩や砂の斜面。
時々は岩をよじ上り、砂地の急斜面を少しづつ登って頂上に近づいて行く。
食べられそうなだけ、食感の悪いふやけたミックスナッツと甘栗を、できるだけ多く貪り食った。
登山の不思議なところは、こんな歩幅と遅すぎる歩の運びでは、到底山頂まで辿り着ける訳が無い、と思えるペースでも、いつのまにか、驚くほど距離を稼いでいることだ。
これはホントに毎回驚かされる。
少しづつでも、一歩づつでも、進めていればいつのまにか頂上は間近になっている。
そんな不思議を今回も味わいつつ、頂上の真下まで辿り着いた。
この最後の一登りも、かなり大きな岩壁の攀じ登りだ。
最後まで、気を抜かせない、雄々しい山なのであった。
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