day.2
AM2時。スターウォーズの帝国のマーチ(ダース・ベイダー登場)で起きる。
出発は5時予定。まずはコーヒー。
火器は固形燃料しか持ってきてないので、ESBITで湯を沸かす。沸かしたらマグの底のヤニをアルコール除菌ティッシュまたはボディ涼感ペーパーで拭き取る。
これは大失敗だ。余計な消費になってしまった。ティッシュもボディペーパーも潤沢に持ってきているわけではない。が、こればかりはしかたがない。何とか凌ごう。
朝食はアルファ米の雑炊。FD味噌汁で作る。
アルファ米1袋をクッカーにあけ、FD味噌汁を乗せる。そこに水を400ccほど入れ、火に掛ける。コトコト音がしてきたらもう出来上がり。実に手早く出来る。
何度かこれを食べているが、どうもいまいちな時もあって、うーんと思ったが、水を若干多めに入れればしごく食べやすく美味しい感じになってくれた。
まだ山行の序盤で体調に余裕があったことも影響しているかもしれない。
ただ、私にはアルファ米1袋は多すぎたかもしれない。元々この1袋は「大盛り」だし。
多少のんびりと準備を進め、足指のテーピングや検温などもして、シェルターから這い出す。天候はまずまず良好で助かった。
びしょ濡れのシェルターを収納袋に仕舞う。ザック外側のバンジーに挟もうかとも思ったが、収納袋のほうがコンパクトになるので仕舞った。
AM 5:16
出発。
まずは川沿いにのんびり進む。山道っぽくなったが、相変わらずアップダウンは少ない。
そして相変わらずとぼとぼと歩く。
時間が経つにつれ、登りに斜度が出てくる。
しばらくして槍沢ロッヂに着く。
「槍が見えるよ」という常設の望遠鏡を覗いてみる。槍が見えた。すごいとんがりコーン。
天気は快晴。ザックにソーラーパネルを広げ、Goproの電池を充電してみる。
しかし、横尾からここまでほとんどが林間で、あまり直射日光が差してない。人間としては涼しくていいのだが、あまり充電はできそうもない。
再び歩き出す。
ババ平テント場でトイレを借りる。100円。
更にとぼとぼと歩き、大曲の分岐に出た。
ここで失敗をやらかす。
まっすぐ行けば、当初の予定通りに殺生ヒュッテを経由して槍ヶ岳山荘に着く。3時間半。
しかし、このコースは最後まで続く登りであることを等高線が示している。
地図を見ると、ここをまっすぐ突っ切って稜線に出るコースもある。尾根に出るまでは急な登りだが、出た後は槍ヶ岳山荘まで続くアップダウンの少ない長い尾根歩きとなる。4時間50分。
時間的には余裕がある。早出のおかげで現在時刻はAM9時半だ。
ということで、尾根に出てみることにした。稜線歩きだ。
まずは目の前に続く水俣乗越(のっこし)。ここがキツイことは分かっている。
そのあとには東鎌尾根を辿る。東鎌?超ヤバいと言われている北鎌尾根の親戚?若干妙な予感を覚えつつ、まずは目の前の急登をやっつける。
これがなかなかの難敵で、枯れ沢っぽい岩ゴロゴロの岩沢を登らされると思えば、次にいつ果てるとも知れない九十九折れが続く。
9.5kgプラス水2.5kgを背負い、危ないのでヘルメットに交換し、息を切らせて登る。
めげそうになる度にYAMAPで現在位置を確認し、あと少し、確実に終点に近づいている、と思いながら登る。
結局、標準歩行時間1時間半のところを2時間かけて登り切った。
AM11:30 少し休憩。
ドリンクホルダーの水を補給する。思ったより消費していないが、これでも意識して水分補給はしている。
500ccペットボトルは取り出しやすく、飲みやすく、消費量も分かりやすい。
では行こうか。
水俣乗越へ登ってきた東側を見れば、西岳へ続く山道が見えている。そして槍ヶ岳方面へ目を向ければ・・・あれ?尾根道は?
分かりづらいのかと少し進んでみたが、どうも直進方向に道が無い。
?
・・・上か?
まさかと思ってちょっとまっすぐ登ってみたら、向こう側は断崖絶壁。こっちではない。
ちょっと左へ逸れてみると、あ、矢印がある。え、こんなよじ登り?
かなり高度感のある北側の絶壁を真下に感じながら、更に少しよじ登ってみると、あった。その先に続く細い道。
えー、こんな始まりかよ。
そそり立った壁を乗り越えるように、向こう側に続く山道へ降りる。
そしてまたよじ登る。
あれあれ、穏やかな尾根はどこ行った?
しばらく細い山道を辿り岩を登り、を繰り返し、ようやく太陽を浴びる細い尾根道に出る。やっとか。
と、その目の前には痩せて恐竜の背のように続いている東鎌尾根が現れる。
あー、マジかよ。「尾根はハイキング」の幻想は消え去った。
が、まあ、実はこういうのが好きでもある。
真夏の陽に照らされてひたすら細い道を辿るのも一興だが、変化のある若干キビシ目の稜線を行くのも楽しい。
東鎌、の名を見た時、なんとなく感じた予感は当たったわけだ。
まあそうは言っても地図上で実線表記の一般登山道だし、いつも通り慎重に歩くのみだ。
テント泊装備のザックが重い。
頻繁に休憩を取りながら、変化に富んだ尾根を辿っていく。
傾斜は緩いがハシゴの階段が連続で現れる。どこまでもどこまでも続いているように思えた。いったい、いくつあるんだ。
と、ここで、日焼け対策の自転車用グローブの、ある点について気が付いた。
まず、このグローブは自転車用のため、ハンドルバーを握る手の平に、何点かジェルが封印封入ている。ロードバイクやMTBなどのスポーツ自転車は前傾姿勢となり体重が前後に分散される。ママチャリはどっかりサドルに座る形になるが、スポーツ車は違うのだ。
そのせいもあるが、体重がある程度腕、つまりハンドルバーを握る手にかかり続けるため、路面の振動を拾って手の平が痛くなってくる。そしてまた手の平側が擦れて破れやすい。自転車用のグローブはそのため、手の平側に当て布があったり、縫製が手の平に当たらないようにしてあったり、負荷を軽減するためにジェルが封入されていたりする。
この東鎌尾根の緩い傾斜のハシゴを、緩いとはいえそれなりに角度はついているので、ハシゴの踏み板や横木を掴みながら登っていく。そこで気が付いたのだが、このグローブの封印されたジェルのおかげで、グリップ力が抜群なのだった。これは実は全く頭になかった。ふと気が付いて驚いた。
これは使える。使えるぞ。垂直のハシゴやクサリや岩稜帯のクライミングにもばっちりではないか。
そしてもうひとつ、気が付いた点がある。臭い。
素材は
メイン素材: ビスコース・レーヨンライクラ、マイクロファイバー、SBRシリコンパット
素材構成: スーパーファイバー エラスティックネット
ということらしいが、確かにどこにも防臭とも抗菌とも書いてないので、これは仕方がないのだろう。さすがにスポーツ用なので速乾ではあると思うが(ちゃんと早く乾いてくれた)、ナイロンやポリエステルの、あの汗をかいた時の臭さがそのまま発揮されている。
まあ、しょうがないだろう。残念ではあるが、安いグローブだし、驚きのグリップ力を発揮してくれるので、多少臭いくらいは我慢するさ。
さて、すんげー長い3段ハシゴを降りる。凄い高度感だ。
クサリも頻繁に現れるが、特別ヤバそうな場所は感じられなかった。
短い休憩(30秒~1分程度)を繰り返しながら進んでいくと、若干雲が出てきている。南側には雨雲の出来かけみたいなのも見え始め、空気が若干ひんやりしてきた。
崩れるか?
その予感は直に当たり、ポツポツと雨が降り始める。
ほんの僅かだが、もしやと思い、ザックを下してソーラーパネルをしまい、レインウェア上下を着た。
と、しばらくすると雨足が強くなってくる。
本降りになってきたあたりで、都合よく大きな岩陰があったので、止みはしないかと期待してちょっと雨宿りする。
遠くに雷鳴が聞こえる。
現在時刻は14時。次の中継ポイントのヒュッテ大槍まで、もう程ない。
少し様子を見ていたが、このまま時間だけが過ぎるのもよろしくないと感じ、雨の中を歩き出す。
幸い、土砂降りというほどではない。
岩稜帯も混ざるため滑らないよう慎重に歩を進める。ゆっくり、慎重に歩く。
と、ふと雨に何かがバラバラと混ざって落ちてきた。いててて。何だ?
雹だった。
うわー、これはたまらん。どこかに逃げ込もう。
しかし岩稜帯には都合良く陰になるところがない。我慢して進んでいくと、ハイマツが生えている。
しかたがない。その縁に無理やり体を押し込む。
もし・・・もしこのまま天候が悪化し、進むのに危険を感じるようであれば、シェルターを広げるか被るかしてビバークになるかもしれない。
そんな事を考えた。
しかし、しばらくすると雹は弱まった。止みはしないが、歩くには大丈夫そうだ。
よし、行こう。14時半。
Goproは電池切れとなったが、この状況では交換はできなかった。
しばらく歩くと、ヒュッテ大槍が見えてきた。
時刻は15時近い。
どうするか。
いや、ここから槍ヶ岳山荘までは、標準歩行タイムで50分ほどある。
岩稜地帯で雨。まかり間違うと暗くなり始める。
今からは向かわないほうがいいだろう。今は既に土砂降りになっている。
しかし予約はしていない。
泊めてもらえるのだろうか。
ダメなら槍ヶ岳山荘に向かうしかない。
おそるおそる受付で聞いてみると、大丈夫とのこと。
ならば素泊まりでお願いした。
とりあえず土間でヘルメットとカッパを脱ぎ、案内してもらった乾燥室で濡れたものをぶら下げる。
シェルターは無理だが、登山靴などは乾かせそうだ。
寝床に案内される。二人スペースの2段ベッド方式が対面。対面にもう一人いらっしゃったようだが、ついぞ姿は見えなかった。
素泊まりにしたのは、疲れ過ぎて食べられないかも、と思ったからだ。
美味しそうな夕食の匂いと楽し気な雰囲気はうらやましくもあったが、食べてもダメにしてしまう可能性もあったので、水だけを多めに飲んで早目に寝た。
もう随分昔、カミさんとヒマラヤトレッキングに参加し、5360mのピークまで登ったことがある。その時、のどが渇いていなくても水分が必要で毎日必死に水を飲んでいた。
ここ3000mも高地のため、水分は通常以上に必要だろうと思い、飲んでいた。
明日、槍ヶ岳山荘までの50分に必要なエネルギーはカロリーメイトと行動食で補う。
それでも足りなければ有り余る食料を持っているのだ。
day.3
早朝5時。
お世話になったお礼を言って(有料7500円)、ヒュッテ大槍を後にする。
朝日が目の前の大きな槍ヶ岳を照らしている。素晴らしいモルゲンロート(山肌の朝焼け)だ。
想像通りの岩稜地帯を辿っていく。若干厳しめの箇所も混じっている。
昨日、無理して向かわなくてよかったかもしれない。疲労と焦りで判断力が鈍っている状態では余計に危険だ。更に足元が暗くなってきては目も当てらない。
ゆっくり、確実に歩を進めていく。エネルギーを補給したとはいえ、勇んで突き進むほどは補給していない。
それでも槍ヶ岳山荘にはほぼ標準タイムで到着した。
AM6時。
途中、どうするかと考えたが、このまま槍ヶ岳を往復し、更に大キレットへ向かうのはちょっと無理があるように思える。まずは体を休める。行けそうなら槍ヶ岳登頂を目指すのもいい。
大キレットに挑むのは明日だ。
テント泊の受付。水は1L=200円。
あとで3L補給しよう。
割り当てられたエリアCに到着。ひと安心だ。
ザックを下す。
まずはシェルターを広げる。せっかく晴れてくれているので、丸ごと乾かしたい。
適当な岩に細引きを結び、途中にいくつもループを作って色々なものを干す。昨日乾かせなかったものも色々とぶら下げた。
とりあえず朝食を食べたい。カロリーメイトは1時間の岩稜歩きで消費してしまっているはずだ。
食料計画には無い、予備日消費の朝食。さてどうするか。
ちゃんと美味しく食べられる、ということを重視して、最終日昼に用意したカップヌードルシーフードを今回に回すことにした。
予備の非常用食料はカロリーメイトがあとひとつある。他にも行動食もある。今朝の出発時に若干予定外の消費をしているので、行動食は槍ヶ岳山荘で何かお菓子を買おう。(味ごのみとスナックのチョコを買った)
ふと気が付くと、東側より濃いガスが登ってきている。あっという間に巻かれた。
あらー、これは凄いな。
幸いなことに、短時間でもシェルターを始め乾かしているものはあらかた乾いてくれた。
携帯ソーラーパネルでのGopro電池とモバイルバッテリーもほぼ充電してくれた。
降ってくるか、と思ったが、降るほどではないらしい。槍ヶ岳山荘に設置されている基地局のおかげでスマホも使える。天気予報でも降らない予報だった。
よし、登るか。
改めて設営したシェルターに荷物を入れ、ザックをアタック仕様にする。
もっともこの28Lザックは元々がアタックザックなので、これが本来の使い方だ。
槍ヶ岳に向かう。
槍ヶ岳山荘は、槍ヶ岳の屹立したとんがりのすぐ麓位置にある。すぐそこだ。
まずはとんがりに取り付き。下から見上げてみる。かなりな急角度の斜面だ。
しかし、クサリやハシゴが整備されていて、ロープを使うほどではない。
ちなみに『アルプス一万尺』で有名は小槍は隣だ。こちらはクライミングエリア。一万尺はもちろん標高3千mのこと。
岩に取り付いて登っていく。所々、行き違いの一方通行になっている。
ふと思い出したが、Youtubeに動画を上げたところ「ハシゴはステップを持ちなさい」という指摘をだいぶいただいた。
なるほど、そういうものか。
・・・しかし、WEBで多くの画像を参照してみると、登山のハシゴでステップを持っている画像は驚くほど出てこない。
みんなも知らないのだろうか。
確かにいざ何かのアクシデントで足を踏み外したりして手でのみハシゴにぶら下がる羽目に陥った時、ステップを掴んでいれば直ちに落下する危険は、サイドの枠を掴んでいるより小さい。
実際にそんな事が起こったら、おそらくステップを掴んでいてもダメだろうが、可能性として横を掴んでいるよりは助かる確率は高いかもしれない。そうである限りはご指摘は正しいと思う。
自分の無知に恥じ入った反省はあるが、確認しようとあれこれ検索しても、登山ガイドも山岳救助隊もこれについて指摘事項は見当たらず、驚くほどステップを掴んでいる画像が少ないので、あまり意識されていないのかもしれないと思った。
さて、槍ヶ岳の斜面を登っていく。途中、単独で登っている若い女性と出会う。
なぜ一人なのか、この人も単独なのか、は分からないが、「自分は怖がりなんです」とおっしゃっていた。
・・・ではなぜこんなゴツイ斜面の槍ヶ岳にw
特に同行はしなかったが、私の後から無事山頂に来られた。
10:02
槍ヶ岳に登頂。
槍ヶ岳山頂は360度展望。・・・・なのだが、残念ながら東側はかなりガスに巻かれている。西側はいいお天気だ。
山頂の祠に100円を奉じ、無事登頂出来た感謝を述べる。
10:12
下山開始。
途中でLINEが着信する。うーん、なんだろ、この違和感。誰かと思ったらカミさんだった。
急斜面の岩にへばりついて返信。
無事に降りて、キャンプ地に帰り着く。
ガスに巻かれて少し気温が低い。シェルターに潜り込み、昼食の用意をする。
入口外に固形燃料を据え、お湯を沸かす。
と、お湯を沸かし始めたところでポツポツと雨が降ってきた。
あらー。
・・・、まあ、槍ヶ岳アタック中に降ってこなくてよかった。
シェルター内に引っ込んで昼食を取る。
ここで食糧計画は当初の予定に戻った。
アルファ米のえびピラフとクノールのインスタントコーンスープ。
昨日の体力消耗が尾を引いているのだろうか、もうひとつ美味しく感じられなかった。
アルファ米メニューはこれが時々ある。体調によって美味しく感じられる場合とそうでない場合がある。いや、何もアルファ米の罪ではないのだ。他のメニューでもある。
私の場合、絶対に間違いなく美味しく食べられるのは、日清カップヌードル系、マルちゃんのワンタンスープ、どん兵衛きつねうどん。
食糧計画は非常に重要だ。なにしろ4泊5日、今回はもう1日プラスを、厳しい山岳地帯を歩き通す。しっかり食べなくては体力が持つわけがない。
登頂を祝してアーリータイムスも解禁し、完食。
今日は体を休める必要もあるので、雨音を聞きながら昼寝。
目が覚めてもまだ夕方にはなっていなかった。
すぐ上に隣接するエリアにもテントが張られている。そのまた上にも。結構人が来ているのだろうか。
うだうだとしているうちに夕方になってくる。
明日も2時起床、5時出発だ。
18時に近いので夕飯にしよう。
夕飯はご飯(炊飯)、缶詰、FD味噌汁。
いつもの貧相な山メシ。
不思議なことに、このメニューを動画で見て「いいね」と言って下さる方がだいぶいらっしゃる。
ホントに貧相で撮る価値は無いと思うのだが、不思議とそうおっしゃっていただける方がいらっしゃるので、申し訳無い気持ちのままに、記録している。
本人はこれでいいと思っている。このメニューは炊飯が面倒くさいものの、炊いたご飯はやはりアルファ米よりすっと美味しいし、おかずの缶詰は見た目は貧相なものの、バリエーションは豊富。FD味噌汁も非常に多くの種類があり、スーパーで簡単に手に入る。
食欲が無くてもまず間違いなく食べられる、鉄板メニューだ。
・・・ただ、見た目がいかにもヒンソーなのが申し訳ない。やたらバエないメニューだ。
そんな見た目に乏しい、しかし美味しい夕飯をいただく。
もちろんアーリータイムスもいただく。
そしてほどよく酔っぱらってシュラフに潜り込む。
お隣のテントのガサゴソが気になるが、それもスマホにマイミュージックで問題無し。(ヘビーメタルばっかり)
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