ちょっとだけ軽くなったが、その分水が加わってちょっとだけ重くなったザックを背負い、雲取山に向かう。
いいお天気だ。冠雪した富士山もきれいに見える。
奥多摩小屋から雲取山山頂までは、標準歩行時間で43分。距離は短い。急登が3箇所あるが、いずれも長くは無い。
のんびり、何度も何度も富士山を振り返りながら、まぶしい青空を見上げて登っていく。
10時05分、雲取山に登頂。標高2017m。東京都の最高峰でもある。
さすがに人は多いが、多すぎることはなかった。最も鴨沢からだと4時間ほど(休憩無し)かかるので、まだ混み合う時間では無いのだろう。
そこそこの人、落ち着いた山頂の風景。いい登山だった。
山頂の滞在時間が平均5分の私としてはゆっくり休憩し、10時22分、下山を開始する。
今度は富士山をほぼ正面に見ながらの贅沢な下山だ。
昨日は長い鴨沢ルートでだいぶ足の筋肉を消費しているので、膝を曲げ気味にして腿とふくらはぎの筋肉をバネにして意識してゆっくり下っていく。
今日はこれから鷹ノ巣山まで石尾根を辿り縦走するので、体力と筋力をなるべく温存して歩こう。
多くの登山者の人々と挨拶を交わしながら、ゆっくり下山していく。
さすが、人気の山だ。日本百名山のひとつでもある。
○○時○○分、奥多摩小屋に戻ってきた。そのまま通り過ぎる。
私のキャンプ跡には既に別の人のテントが張られていた。そこは一等地ですからねえ。
ヘリポートを通り過ぎ、石尾根縦走路を進む。ダンシング・ツリーまでやってきた。
お父さんと息子が記念撮影している。向こうには団塊世代くらいのお爺さんもカメラを向けている。
やはりシンボル的なのだろう。
この親子は私と同じ方向らしく、抜きつ抜かれつだったのだが・・・・ちょっと気になった。お父さんがずんずんスピードを上げて私を抜かしていくのだが、小学校3~4年生くらいの息子さんは、ついていけない。すると「走れ!」とか「どんどん行くぞ!」とか、色々と息子さんを激励するのだが、また私を抜いて一人で行ってしまう。私が抜かすタイミングで大声で怒鳴ったりするものだから、びくっとしてしまったりする。
・・・・・うーん。言わない。言わないよ。余計な事は、ね。他人ん家の事だしね。
ブナ坂を超えて、七ッ石山の山頂へ続く急登になっても、息子さんを置いて「先に行ってるぞ!」
ま、まあ、余所の家の事だしね。急登にあえいで途中で息をついていると、かなり下のほうから息子さんはぶらぶらと登ってきているのだった。
11時50分、七ッ石山に登頂。
狭い山頂に人がいっぱい。まあ、しょうがないだろう。奥多摩だもんね。
しかし、三角点にザックをでーんと置いて憚らないのは・・・うーん。
正直、コレではね。1分もたたずに下山を開始した。
七ッ石山山頂では、ちょうどお昼時だったせいだろうか、下山者は他にいなかった。
ちょっとペースを上げて、なるべく早く離れてしまう。
もう何度も鴨沢から雲取山へ登っているのに、この七ッ石山へはこれが初めての登山だった。
特段避けていた理由も無いのだが、必ず巻き道からブナ坂へ出ていたので、登らなかった。
今回が初登頂だ。
少し下っていくと、七ッ石神社に到着。あれま、この神社も未チェックだった。
「将門迷走」のプレートがある。なるほど、1枚行方不明だったのはここだったのか。
・・・しかし、帰って動画や写真をチェックしてみたら、いくつか抜けているプレートがあった。
ふーん、どこにあるんだろうか。
途中で鴨沢方面に分かれる右の分岐が出てきた。
石尾根縦走路はまっすぐで、私はこのまままっすぐ鷹ノ巣山を目指す。
この分岐を過ぎてからは急に人がいなくなり、同方面へ行く人もすれ違う人も、皆無といっていいほどいなくなった。
急に、静かになった感じだ。
分岐直後にペースの速い軽ザックの登山者が1人抜いて行き、あっという間に見えなくなった。奥多摩駅まで歩き通すのだろうか。
私は9kgちょいのザックを背負い、ゆっくりと尾根を辿って行く。
静かだ。誰もいない。私以外に人間がいない。
少しの風に草木がざわつく音と、私が土道と枯葉を踏む音しか聞こえてこない。
ここでは好きなだけゆっくり歩ける。なんという贅沢だろうか。
しばらく呆然と歩いていくと、急な登りが出てきた。これは高丸山の山頂へ続く登りだ。
なかなかハードな登りだ。
実を言えば、鷹ノ巣山へ向かう石尾根縦走路は地図上でチェックはしていたが、あまり仔細に調べてはいなかった。途中、何か山があって超えて行くのか巻いていくのか、まるで未チェックだったのだ。
この高丸山はそんな現地のノリで、登るか、巻くか、うーん、じゃ、登ろうか、程度の気持ちで決めたのだった。
12時48分、高丸山に登頂。
例の大仰な山頂の碑は無い。板に「高丸山」と書かれてその辺の木に結ばれているだけだ。
それでもこの高丸山は標高1,733m。決して低山ではない。
誰もいない山頂。少々の樹木であまり周囲の見晴らしはきかない。が、静かな石尾根縦走路に続いた、静かな山頂だった。
少々の休憩をとり、水分を補給した。
山頂からの下りはジェットコースターだった。見晴らしのいい尾根に続いているので、眼下に斜面が一望出来る。スキー場のようだ。
再び、誰も来ない、誰もいない尾根を辿る。
頭の中から都会の雑事がどんどん漏れていき、さわさわと周りの草木のミニチュア版に置き換わっていくような気がした。
もう頭の中に、風が通る尾根道しか入っていない。辿るべき道ははっきりしていていて迷わない。地図を広げるまでもない道が続いている。
一種、放心したような状態で歩いていた。頭の中に言葉が無くなっていた。
どれくらい時間がたっただろうか。ふと、目の前に再び急登が現れた。
ん?どこだ、ここは?
地図で確認すると、日陰名栗山(日陰名栗峰)の山頂に続く登りだった。
ほとんど迷わず山頂に向かって登り始める。
しかし、これまた相当な急登だ。ペースをぐんと落としてゆっくり登った。
13時27分、日陰名栗山に登頂。
標高1,725m。
ここにもごっつい山頂碑は無い。例によって木の板に無造作に「日陰名栗峰」と書かれ、立木に結ばれていた。
ザックを下ろし、水を飲み、サコッシュからミックスナッツとチョコレートを出して食べる。
しかし不思議なもので、私は山に入ると途端に食が細くなる。
食糧計画は毎回しっかりやってくるものの、今回のように昼メシのタイミングを逸してナッツの小袋とチョコ2粒程度で、普段は絶対やらない運動強度で体力も筋肉も消費するくせに、これで夕飯まで全く問題無く過ごせてしまう。
そのせいで食糧を余らせて、予定外の重量負担で帰路についたりするのだ。
さて、日陰名栗山を下りる。とても整備されているとはいえない下山道だ。剥き出しの土斜面が崩れないよう木の板を階段状に大まかに打ち込んだ、その端っこの土手をざりざりと滑り下りていく感じだ。木の板は10 x 2m以上あるので、そこはとても歩けない。
それだけ、登山者も少ないのだろう。
さて、もう超えるべきピークは無い。あとは整備の甘いこの石尾根縦走路を辿って鷹ノ巣山避難小屋の野営地まで歩き通すだけだ。
あとどのくらい、と思ったが、あえて地図を広げることをしなかった。道が怪しくならない限り、未知の経路を辿って、まだかな、まだかな、と楽しみに歩いてみよう。
相変わらず開けた広い尾根道だ。独り占めに出来てしまうなんて申し訳ないくらい気持ちのいい縦走路だ。
比較的穏やかなアップダウンの登山道を歩いていく。
どれくらい歩いただろうか、再びアタマが空っぽのまま呆然とゆっくり歩いていると、前方に人工物らしきものが認識された。
どうやらあれは小屋らしい。
13時51分、鷹ノ巣山避難小屋に到着した。
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